日本政策金融公庫の新規開業資金(新企業育成貸付)とは?
個人事業主や中小企業が資金調達する場合、日本政策金融公庫をおすすめされますし、実際利用される方が多いです。
日本政策金融公庫の融資制度にはかなりの種類があるのでその中のでも、自分の状況に合った融資制度を選ぶことが重要になります。
それぞれの融資制度の特徴や条件をしっかり吟味するために、ここでは、そのうちの一つである新規開業資金(新企業育成貸付)について見ていきます。
目次
1.利用条件
この融資制度は新たに事業を始めようとしているとき、または事業を始めてから7年以内の方が対象となっています。
創業者向けとしてもっとも一般的な融資制度です。
そうはいっても、新規事業を始める、あるいは7年以内なら何でもいいというわけではなく、始めようとする事業について一定の経験があることや、支援を受けているなど、能力があることがある程度見込まれる方が、この融資制度を利用できるとしています。
2.資金の使いみち
借り入れた資金の使いみちは、新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金及び運転資金に限定されています。
融資申込みの際に申請した内容と異なる用途に資金を使うことは禁じられており、一括返済を求められますし、日本政策金融公庫からの借入はその後できなくなります。
資金には運転資金と設備資金と2種類あり、それぞれ条件が異なっています。

このように、一つの融資制度の中でも、申込者の状況により金利条件など細かく異なった設定がされていることがわかります。
それでは、運転資金と設備資金の定義を見ていきましょう。
(1)運転資金
運転資金とは、事業経営に必要な資金のことでランニングコストとも言われます。
事業を回していくためには、人件費、仕入れにかかる費用、消耗品の購入にかかる費用など、営業していくためにかかってくる費用です。
運転資金は次の式で算出します。
運転資金=売上債権+棚卸資産-買入債務
言い替えると
運転資金=売上+在庫-仕入れ
となります。
売上がいくらあったとしても、運転資金が十分あるとは限りません。
というのも、月に100万円の仕入れをして150万円売り上げたとします。
会計上は50万円の利益が出て黒字になっていることになります。
ただ、現金払いの商売ならそれも可能かもしれませんが、仕入れの支払いの時期と、売上が現金化されて入ってくる時期には差があることがほとんどです。
仕入れの支払いはその月に行って、売上金の回収が翌月というサイクルであったとしたら、翌月の仕入れ代金が足りないという状態になり、事業を続けていくことができません。
仕入れをし、売り上げて、次の仕入れをしてと、事業のサイクルを回していくために必要となってくるのに必要なお金が運転資金です。
支払うお金が手元になく、滞納するようなことになれば、いくら会計上は利益が出てい事業であったとしても、倒産ということになってしまいます。
(2)設備資金
設備資金は、設備にかかる資金のことです。
設備というのは、建物、車、機械設備といった長期にわたって事業で利用し、基盤となる有形固定資産のことです。
事業を拡大するため多額の投資が必要となった場合、その多くは設備資金として扱われます。
このような資金はイニシャルコストとも呼ばれます。
設備資金は金額が大きく、融資の申込みで申請している内容と異なっていないかの判断がしやすいため、追跡調査をされることもあります。
領収書などは、当然保管されているものですが、後から資金の使いみちを証明できるように、整理して保管しておくことが重要になります。
3.融資限度額
融資限度額は、制度上、この額までは融資できますという設定金額です。
そのため、その満額まで融資してもらえるとは限りませんし、状況によっては申し込んだ希望額を下回ることもあります。
4.返済期間(据置期間)
返済期間は、日本政策金融公庫が、返済し終わるのを待ってくれる期間のことで、イメージしやすいと思います。
据置期間というのは、日本政策金融公庫が、その期間は利子の支払いのみにしてくれるという期間で、本格的に返済を始めるのは、その後からとなります。
また、返済期間はこの据置期間を含んだ期間のことですので注意してください。
据置期間を長くしすぎると、残りの期間の月々の返済の負担が大きくなります。
この新規開業資金(新企業育成貸付)では2年間、据置期間を設定できるようになっていますが、一般的には、事業が軌道に乗るまでの半年程度にすることが多いです。
もう1点、注意が必要で、この据置期間というのは、後から設定することはできません。
申込みの際に、自ら申し出ておく必要があり、何も言わなければ据置期間は設定されません。
返済期間も据置期間も最大の期間が設定されていますから、これより短くなる想定をしておくようにします。
5.利率
利率とは、融資を受けたときに、融資金に上乗せして支払う利子、金利を算出する率のことです。
日本政策金融公庫の場合、この利率は年間で算出する年利となっています。
この利率は、経済状況などを反映し、年に何回も見直しが行われていますので、最新のものは日本政策金融公庫のウェブサイトで確認できるようになっています。
ここから、新規開業資金(新企業育成貸付)で適用される3つの利率について見ていきます。
(1)基準利率
特に事情がなく、属性も一般的なものであれば、基準利率が採用されます。
もっとも一般的な利率で、これが変わる要素としては担保と保証人があります。
(2)特利・特利A
公的な支援を受けて起業する場合、基準利率よりも低い利率の特利や特利Aという利率が採用されます。
公的な支援を受けてというのは、次のようなものがあります。
・産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けた新たに事業を始める方
・地域創業促進支援事業又は潜在的創業者掘り起こし事業の認定創業スクールによる支援を受けて新たに事業を始める方
・Uターン等により地方で新たに事業を始める方(別途認定が必要)
・独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合から出資(転換社債、新株引受権付社債、新株予約権および新株予約権付社債等を含む。)を受けた方
(3)特利B
起業に際しての背景に関係なく、事業内容に技術・ノウハウ等に新規性があると認められた場合、特利Aよりさらに低金利の特利Bが採用されます。
令和2年1月6日現在の3つの金利は次のように定められています。

6.担保・保証人
融資について検討する際に重要な要素の一つとなるのが担保と保証人です。
担保というのは、お金を返すことができなかったときに没収される財産のことです。
保証人というのは、お金を返すことができなかったときに支払い義務が生じる連帯保証人のことです。
新規開業資金(新企業育成貸付)を申し込む場合、担保の有無が選べます。
保証人なしを希望する場合は、別の融資制度を利用することになります。
制度がことなると、融資限度額や返済期間といった条件が異なってくるので注意して比較する必要があります。
まとめ
新規開業資金(新企業育成貸付)は、新しく事業を始めようとする方を支援するための制度です。
創業までに時間的に猶予があり、公的な支援を受けて準備ができる場合は、この融資制度を利用することがおすすめです。
その他にも女性・若者・シニアを対象としたものや、被災をきっかけに離職した方の創業支援を目的とした融資制度もあります。
ご自身の属性や、事業の内容によって一定の要件を満たすことができれば、より良い条件の融資制度がある可能性もありますので、しっかり調べて挑戦することをおすすめします。