日本政策金融公庫の資本生性ローン(劣後ローン)とは?
資本性ローン、もしくは劣後ローンと呼ばれる借入があるのをご存じですか。
一般的な借入の場合、負債となります。
しかし、この資本性ローン(劣後ローン)の場合は、資本とみなすものになります。
日本政策金融公庫にも、資本性ローンとして「挑戦支援資本強化特例制度」があります。
ここでは、資本性ローンと「挑戦支援資本強化特例制度」について見ていきます。
目次
1.「劣後」とは?
劣後とは、なかなか聞き慣れない言葉だと思います。
資本性ローンの劣後というのは、支払いの順番を示しています。
会社倒産時の債権回収は、順番の決まっており、公租公課である税金が最優先されます。
それに続いて従業員の給与、そしてその他の債権の回収という順になります。
その他の債権においても、回収の順番があり、劣後となる債権は他の債権より回収の順番が後になります。
会社が倒産してしまった場合は、回収する可能性が非常に低い債権ということになります。
2.資本性ローン(劣後ローン)とは?
それでは、そのような資本とみなせるという資本性ローンには、どのようなものでしょうか。
特徴を順に見ていきます。
(1)資本性ローン(劣後ローン)のしくみ
借入金は、財務諸表では「負債」となります。
金融機関が追加融資の際に確認する項目の一つに自己資本比率があります。
自己資本比率(%)は、資本(純資産)÷資産(総資産)×100で算出します。
融資を受けると負債が増えますから、自己資本比率が低くなります。
自己資本比率が高い方が良いので、このような状態は自己資本比率の悪化と表現されます。
ところが、この資本性ローンの場合は、負債ではなく、資本の一部とみなすことができますから、自己資本比率が悪化することがありません。
同じ金額の調達として、融資を利用した場合と、資本性ローンを利用した場合では、このように仕訳がことなるので、自己資本比率が変わってくることになります。
(2)資本性ローン(劣後ローン)の注意点
借入であるのに、負債ではなく資本とみなされますし、会社が倒産するようなことがあった場合も、他の債権回収が優先され最後に回収されるという特徴があるということは、資本性ローンを活用するのがとても良さそうです。
しかし、実は注意点があります。
・融資よりも利率が高くなる可能性がある
・返済期間が融資よりも長く設定されている
金融機関にとっては、回収できない可能性もあり、リスクが高い融資となります。
となると、通常の融資よりも利率は高く設定され、返済期間も長くなる傾向にあります。
利用する側としても、この借入は資本とみなされるため、財務諸表上は良く見えるかもしれませんが、あくまでも借入であるということは変わりません。
3.日本政策金融公庫の「挑戦支援資本強化特例制度」とは?
日本政策金融公庫が取り扱っている資本性ローンに挑戦支援資本強化特例制度があります。
この特例制度による借入は、金融機関の検査上は自己資本としてみますことができますし、法的倒産手続きの開始決定がなされた場合には、全ての債務の回収後に回収されます。
ベンチャー企業や、スタートアップ企業等、新たな事業を始める方、事業開始後まもない方が対象となっています。
さらに、無担保・無保証人で利用できる制度となっています。
(1)適用条件
この特例制度を利用できるかたは、次の1および2を満たす法人または個人企業の方となります。
1.適用できる融資制度次の(1)から(12)までのいずれかの融資制度の対象となる方 (1)新規開業資金 (2)女性、若者/シニア起業家支援資金 (3)再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資) (4)新事業活動促進資金 (5)中小企業経営力強化資金 (6)食品貸付 (7)一般貸付(ただし、前(6)の対象者にかかる運転資金に限ります。) (8)海外展開・事業再編資金 (9)事業承継・集約・活性化支援資金 (10)企業再建資金 (11)生活衛生新企業育成資金 (12)生活衛生企業再建資金 2.その他の条件次のいずれの要件も満たす方 (1)地域経済の活性化にかかる事業を行うこと。 (2)税務申告を1期以上行っている場合、原則として所得税等を完納していること。 |
融資限度額は4,000万円です。
※ただし、1.の(9)の融資制度に限り、別枠4,000万円となります。
返済期間は、5年1カ月以上15年以内です。
「1.適用できる融資制度」には、それぞれ条件が別途定められておりますので、詳しくは日本政策金融公庫のWebサイトでご確認ください。
この挑戦支援資本強化特例制度を利用する場合の融資条件は次のように定められています。
・審査時に事業計画書をご提出いただく必要があります。
・税務申告を1期以上行っている場合、原則として所得税等を完納されていることが必要です。
・四半期ごとの経営状況の報告等を含む特約を締結していただきます。
(2)利率
この特例制度の大きな特徴の一つが利率の決め方です。
申込時に利率が決まっているのではなく、融資後に1年ごとに直近の業績によって、貸付期間ごとに3区分の利率が適用されます。
売上高減価償却前経常利益率 | 貸付期間 | |||
5年1ヵ月以上 7年以内 | 7年超 9年以内 | 9年超 12年以内 | 12年超 15年以内 | |
5%超 | 5.30% | 5.60% | 5.95% | 6.20% |
0%以上5%以下 | 3.15% | 3.30% | 3.50% | 3.60% |
0%未満 | 1.00% | 1.00% | 1.00% | 1.00% |
業績に応じた金利設定ですので、業績が低調なときは、金利負担が小さい設定となりますので、安定的な返済計画を立てることができます。
逆に業績が好調なときは、業績が低調なときと比べて金利負担が大きくなってしまいます。
(3)返済方法
返済方法も、かなり特殊です。
返済は、期限一括となり、利息を毎月支払います。
そのため、融資期間中は元金の返済負担がありませんので、月々の資金繰りの負担を軽減することができます。
契約後の期限前返済は、原則としてできないこととされています。
まとめ
資本性ローン(劣後ローン)は自己資本とみなすことができますし、借入期間中は利息のみの支払いという特徴があるので、財務体質の強化につながります。
新たな事業を始める方や、事業開始後まもない方が対象となっているので、ベンチャー企業やスタートアップ企業が利用しています。
業績に応じた金利設定となっているため、さらに資金繰りに余裕ができます。
ベンチャー企業がベンチャーキャピタルからの出資で資金調達した場合と比べて、株の希薄化を抑えつつ資金調達ができますので、経営者の思うような経営がしやすくなります。
資本性ローンという資金調達の方法があることを知っておくと、自社の状況に応じて判断する選択肢が増え、さらに積極的な経営ができるのではないでしょうか。